偽りのお嬢様〜不器用な御曹司は、素顔の私を離さない〜


私たちは、商店街を歩いた。平日の午後、人通りは少ない。お惣菜屋さんの前を通ると、揚げ物のにおいがした。

「ここです。景斗くんを、連れてきたかった場所」

私が足を止めたのは、商店街の奥にある小さなコロッケ屋の前だった。

年季の入ったお店。油の匂いがあたりに漂っている。ガラスケースの中に、100円のコロッケが並んでいる。

景斗くんが、目を丸くした。

「小さい頃からずっと好きで。衣がさくさくで、中がほくほくで。ここのおじさんのコロッケ、本当においしいんです」

「……初めて来た」

「西園寺家の人が、来る場所じゃないですよね」

「うん」

景斗くんはお店のおじさんを見て、それから私を見た。

「でも、なんかいいな。ほっとする感じがする」

コロッケを一つずつ買って、商店街を歩きながら食べる。

景斗くんが一口頬張ると、衣のさくっという音がした。彼は黙ったまま、もう一口食べた。

「……おいしい」

「でしょう」

「コンビニの肉まんぶりだな、こういうの」

「え?」

思わず声が出た。

「肉まんの話、まだ覚えてたんですか?」

「忘れるわけないでしょ。あのときから、陽葵のことが気になり始めたんだから」