「蒼空くんのファンミ、どんな話をしてくれるか予想してたんだけど、聞いてくれる? 絶対、ソロ曲について──」
「真白さん」
「そういえば最近、蒼空くんが犬を飼い始めたって──」
「真白さん!」
「……はっ」
真白さんが目を瞬いて、私を見た。
「ごめんなさい、つい……」
「予想は、ファンミの当日にしてください」
「そうね。続けましょ、特訓」
真白さんは咳払いをして、姿勢を正した。耳の先が少し赤い。
……この人、本当に面白い。「完璧なお嬢様」と「推し活全力少女」が、こんなにすんなり同居している。
私は、演劇部での台本読みと同じだと思うようにした。台詞を覚えて、動き方を覚えて、キャラクターになりきる。得意なはずだ。
でも、これは演劇じゃない。本当に誰かを騙すことになるんだ……。
その重さが、胸の奥にずっと引っかかっていた。
「西園寺くんは物静かな人だから、そんなに喋らなくても大丈夫よ。向こうも、私のことはそんなに詳しく知らないはず」
「……はい」
うまくいけばいい。だけど、もし失敗したら──そこまで考えて、私は首を横に振った。
失敗しないようにするしかない。
そんな私が今日から数日後、名門・西園寺家の御曹司と向き合うことになる。



