第5部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

――パン、パン、パン。

その時。

静まり返った空間に、
乾いた拍手が響いた。

空気が、一瞬で張りつめる。

「素晴らしい」

階段の奥、
闇の中からゆっくりと声が落ちる。

「まさか、ここまで辿り着くとはね」

重い足音。

一歩ずつ、
こちらへ近づいてくる。

「ディランにも、
あまり嗅ぎ回るなと釘を刺しておいたのだが」

闇の奥から姿を現したのは――

ジョルジュ陛下だった。

私は息を呑む。

けれど、
すぐに背筋を伸ばした。

「……なんて、恐ろしいことを」

声は震えていない。

胸の奥は冷たいのに、
言葉だけはまっすぐ出た。

「恐ろしい、だって?」

ジョルジュ陛下が、
愉快そうに笑う。

「美しい、の間違いだろう?」

ぞくり、と背筋が粟立つ。

それでも私は目を逸らさない。

「この老いた身体で不老不死になっても意味がない。
――ディランの、美しい身体でなければね」

その声に、
祖父としての情は一切なかった。

ただ、
異様な執着だけが滲んでいる。

「さて……」

ジョルジュ陛下の視線が、
私たちを順番になぞる。

「君たちは、知りすぎてしまった」

仲間たちが身構える。

その中で、
オーウェン団長だけが呆然としていた。

「ジョルジュ陛下……
これは……どういうことですか」

震える声だった。

信じたくないのだろう。

ずっと忠誠を誓ってきた相手なのだから。

だが、
ジョルジュ陛下は薄く笑うだけだった。

「うむ。
今までよくディランを守ってくれた」

まるで褒美でも与えるような口調。

「君は扱いやすかったよ。
ディランの護衛騎士としても、
王国騎士団団長としても、
“王命は絶対”だからな」

ふむ、と顎に手を添える。

その言葉に、
オーウェン団長の顔から血の気が引いた。

「私は……
ずっと……」

利用されていた。

その事実を理解したのだろう。

ぎり、と剣を握る手に力が入る。

そして、
私たちの前へ出た。

「貴方は……
ディラン殿下を大切に思っていたのではないのですか」

「大切だとも」

ジョルジュ陛下が嗤う。

「私の所有物としてね」