第5部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

「……とりあえず、証拠資料を確保して。
 それから、外に出ましょう」

そう言った、その直後だった。

「随分はやいですね」

そう言って、セナが鋭く目を細めた。

視線の先――
石階段の奥から、重い足音がゆっくりと響いてくる。

その姿を見た瞬間、
私は思わず息を呑んだ。

「オーウェン団長……どうして」

現れたのは、
いつもディランの傍で護衛を務めている、
王国騎士団団長オーウェンだった。

重厚な鎧姿のまま、
こちらを静かに見据えている。

「……驚いたな」

低い声が、静かに落ちる。

「まさか、ここまで早く辿り着くとは思っていなかった」

その言葉に、
私たちは一瞬、顔を見合わせる。

「私はディラン殿下の護衛騎士です」

オーウェン団長が淡々と告げる。

「ジョルジュ陛下の命により、
貴方方の行動を監視していました」

空気が、ぴたりと凍った。

「監視……」

セナが低く呟く。

「ディラン殿下に危害を加える可能性がある。
そう報告を受けていましたので」

真っ直ぐな声音。
けれど、その言葉に悪意は感じない。

……この人は、本当に知らないのだ。

ジョルジュに利用されている。

「なるほどね〜」

テオが肩を竦めながら、
じろりとオーウェン団長を睨む。

「でも、それ……本当に合ってる?」

「……どういう意味ですか?」

オーウェン団長の眉が寄る。

私はゆっくりと、
壁一面へ視線を向けた。

そこには、
大量の資料が貼られている。

ディランの行動記録。
魔力反応。
身体データ。
幼少期から現在までの異様な調査内容。

執着じみた記録が、
狂気のように並んでいた。

「オーウェン団長……
これを見ても、私たちがディランの敵だと言えますか?」

その瞬間。

オーウェン団長の表情が、
はっきりと変わった。

「な……っ」

目を見開き、
息を呑む。

「なんですか……これは」

明らかな動揺だった。

資料へ近づき、
震える手で紙を掴む。

「これは……ディラン殿下の……」

顔色が変わっていく。

やはり知らなかった。

ジョルジュの本当の目的を。