第5部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

「……なに、これ……」

壁一面に貼られていたのは、
幼い頃から現在に至るまでの――
ディランの肖像画や写真、そして無数の資料だった。

執拗なほど、びっしりと。

ユウリが素早く一枚の書類を抜き取る。

「……やはり」

「どうしたの?」
ルイが不安そうに尋ねる。

「ディラン殿下のご両親は、事故で亡くなったのではありません」

その声は、ひどく冷静だった。

「ジョルジュ陛下によって、殺されています」

「……ど、どうして……?」

ルイの唇が、わずかに震える。

テオが壁に貼られた資料の一つを指差した。

「ここに書いてある。
“ディランが、器として最適”ってさ……」

私は、胸の奥が締めつけられるのを感じながら、口を開いた。

「……きっと、気づいたんだよ」

全員の視線が、私に向く。

「ディランのご両親は、
ジョルジュ陛下が……ディランを“器”にしようとしていることに」

言葉を選ぶ余裕なんてなかった。

「だから……殺された。
事故に見せかけて」

しん、と静まり返る室内。

その沈黙の中で、
私は自分の唇が小さく震えていることに気づいた。

「……アラン殿下が、言っていたわ」

喉の奥が、ひりつく。

「ジョルジュ陛下は……ディランに、異常なほど執着しているって。
きっと最初から、“器”として育ててきたんだ…」

声が、かすかに掠れる。