第5部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

「……ここは?」

隠し扉の先は、本が壁一面に並ぶ密室だった。
逃げ場のない空間に、重く澱んだ空気が満ちている。

――黒い靄の気配。

間違いない。
探しているものは、この先にある。

「……あれを見て」

部屋の奥。
石造りの壁に、宝石を嵌めるためのくぼみがあった。

「仕掛け扉、ですか……」

ユウリが低く呟く。

「ここにあるのを、一つ嵌めればいいのか?」

レオが足元に置かれた宝石へ視線を落とす。
紅、翠、蒼――いくつもの宝石が無造作に並んでいた。

私は近づき、そっと宝石に視線を向ける。

「……黒い靄」

どの宝石にも、濃い執着と欲望が絡みついている。

「ここにあるのは、だめ」

思わず、声が漏れた。

「じゃあ、どれを嵌めるの?」

ルイの問いに、私は棚の奥を指さす。

埃を被った台座の上。
そこにあったのは、ほとんど透明に近い、小さな宝石。

触れた瞬間――
靄は、ない。

「……無垢。これだ」

その宝石を、残りのくぼみにそっと嵌める。

――カチリ。

低い音とともに、宝石が淡く光り出した。

「……来るよ」

次の瞬間、
壁が静かに割れ、仕掛け扉が開く。

「さすがお嬢様〜」

テオが緩く笑う。

「なんだか……不気味だな」

レオが小さく呟いた。

「行きましょう」

セナの声は低く、しかし迷いがない。

「うん」

私たちは光の消えた奥へと足を踏み入れた。

そして、その先には――

空気が変わった。
冷たさではなく、重さ。
まるで“何か”がこちらを待っていたかのような、静かな圧。

暗闇の奥で、かすかに何かが動いた気がした。