第5部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

図書室の奥、
人目につかない壁の前で私たちは立ち止まった。

そこには、普段は誰も気づかない――
禁書庫へと続く隠し扉がある。

「……ここか」

思わず声が低くなる。
空気がひやりと冷たく、ゾッとする。

長い年月、誰にも触れられてこなかったのだろう。


「よいしょっと」

テオが隠し扉に手をかける。
ぎ、と嫌な音が響き、壁がわずかに開いた。

奥から流れ出してきたのは――
紙と埃、そして得体の知れない何かが混じった、古い匂い。

「……順番に入るよ」

テオの声は、いつもより少し低い。
その緊張が、こちらにも伝わってくる。

私たちは息を潜め、
一人、また一人と、禁書庫の闇へ足を踏み入れた。

背後で、式典の音楽が遠ざかっていく。
光の世界から切り離されるように、
静寂がゆっくりと私たちを包み込んだ。

――ここから先は、もう戻れない。

そんな予感が、胸の奥でひっそりと鳴った。