第5部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

そして私は、後ろを振り向かずにセナとテオへ合流した。
……けれど、胸の奥に、先ほどのディランの体温が一瞬だけよぎる。

「まったくさぁ……あんなに見せつけなくてもいいよね」

テオが小声でぶつぶつと文句をこぼす。

「ふふ」

思わず笑みがこぼれた。
その笑みが消える前に――

「ほら、テオ。気を引き締めろ」

セナの低く鋭い声が落ちる。

「はーい」

その一言で、空気がぴんと張りつめた。
テオが先導し、私たちは図書室の前へと向かう。

「こっちよ!」

ルイが手招きする。
ユウリとレオも、すでに待機していた。


「ティアナちゃん、こっち来て」

ルイに呼ばれ、私はそっと近寄る。

「ほら男共は後ろ向きなさい!」

そう言われた面々はさっと後ろを向く。

「いや、ルイも男じゃん」

テオのツッコミがはいる。

「私はいいのよ」

みんなが後ろ向いたのを確認し、
ルイはすぐに私のドレスの裾へ手を伸ばした。
指先が器用に縫い目へ触れると――

カチ、カチッ。

隠しホックが外れる小さな音がした。

ロング丈だったドレスは、
するりと膝下までの長さに。

「はい、これで踏まないし、走れるわ」

ルイは淡々と言いながら、
スカートの内側に隠されていたスリットも確認する。

「それと……冬だし、冷えるからね」

そう言って、ルイはドレスと同じ色味のジャケットを肩にかけてくれた。

内側には薄いウールが仕込まれていて、
羽織った瞬間、ふわりと温かい。

「これ……軽いのに暖かい」

「特注よ。
 見た目もいいし、でも中はしっかり防寒。
 動くときに邪魔にならないよう、丈も短めにしてあるわ」

ルイは誇らしげに微笑む。

「ありがとう、ルイ。本当に助かる」

「当然でしょ。ティアナちゃんが動けないと困るもの」

軽くウインクして、ルイは私の背中を押した。

――準備完了。