「……このまま、君の手を離したくない」
ディランの声は、音楽に溶けるほど低くて、甘かった。
「なんだか、子どもみたいですね」
くすっと笑って返すと、
「それでもいい」
迷いのない、真っ直ぐな声。
「このままずっと、君とこうしていたい」
「ずっと踊るのは、さすがにきついです」
そう言うと、彼は小さく息を吐いた。
「……そういう意味じゃない」
わかってる。
でも、言葉にしないと胸が熱くなりすぎてしまう。
一拍、間を置いて。
「ディラン……」
視線を合わせる。
「アラン殿下とは、話しましたか?」
「……今、兄上の話をするのか」
少しだけ苦笑が混じる。
「終わったら」
指先が、ほんの一瞬だけ強く絡む。
「ちゃんと、向き合ってくださいね」
「……わかった」
短く、でも確かな返事。
音楽に合わせて、私はターンする。
スカートがふわりと広がり、光を受けて揺れた。
再び向き合った瞬間。
「ティアナ……」
その声には、飾りがなかった。
「無事で、戻ってきてくれ」
「もちろん」
そう言って微笑む。
その笑みは、自分でも驚くほど自然だった。
手が離れる、その瞬間——
ディランが迷わず私を引き寄せた。
そして、額に優しいキスが落ちる。
周囲から、特に令嬢たちの悲鳴が上がった。
「ティアナ、愛してる。
行っておいで」
名残惜しそうに私を見つめるディランの手を、私はそっと離す。
離した瞬間、指先に残る温もりが、胸の奥をきゅっと締めつけた。
――戻る。必ず。
その誓いだけを心に刻み、私は彼から一歩、踏み出した。



