そして、当日を迎えた。
怪しまれないよう、私は合宿の最終日まで参加し、その足で慌ただしく隠れ家へ戻った。
ルイに急いで身なりを整えてもらい、息を整える間もなく再び会場へ向かう。
「ふう……間に合った」
「本当に、ギリギリですよ。お嬢様」
セナが呆れたように言いながらも、その表情には安堵が滲んでいた。
「さて、行こうか」
「はい」
差し出されたセナの腕に手を添え、会場へ足を踏み入れる。
――瞬間、視界が光に満たされた。
天井から幾重にも吊るされた巨大なシャンデリア。
きらめくドレスと礼装が波のように揺れ、優雅な音楽が空気を満たす。
(……これが、王国創立記念式典)
その中心。
階段の上から、ゆっくりと姿を現す影。
金色の髪。
エメラルドの瞳。
誰が見ても疑いようのない――王子。
(ほんとに、絵に描いたみたいだな)
視線が絡む。
ディランが、わずかに微笑んだ。
「ティアナ」
一段ずつ降りてきて、私の前に立つ。
「手を、取ってくれるね」
「ええ」
セナが静かに一礼し、後ろへ下がる。
私はディランの手を取った。
温かくて、強い手。
そのまま2人で進む。
玉座の前。
ジョルジュ陛下が、冷たい瞳でこちらを見下ろしていた。
――氷のような視線。
すべてを値踏みするような、逃がす気のない目。
「よく来たな」
低く、感情の読めない声。
「今日は存分に、楽しんでいくといい」
(……白々しい)
「ええ。ありがとうございます」
形式通りに頭を下げる。
その間も、陛下の視線は一瞬たりとも離れない。
まるで――獲物が逃げないか確認するように。
ディランの手に、わずかに力がこもる。
(大丈夫)
言葉にしなくても伝わる。
――ここからだ。
この華やかな夜の裏で、
すべてが動き出す。



