「式典当日の話だ」
ディランは、わずかに姿勢を正した。
その仕草だけで、空気が引き締まる。
「パーティーでは――君と、踊る」
「……」
胸が一瞬、止まる。
「公式の場だ。
王子として、そして婚約者として」
視線が逸れない。
まっすぐで、揺るぎない。
「誰の目にも、君が俺の隣だと分かるように」
胸の奥が、静かに熱を帯びる。
「……注目、集まりますよ?」
「望むところだ」
迷いのない即答。
「そのあとだ」
声が、わずかに低くなる。
「曲が終わり、拍手が起きたその隙に――君は姿を消せ」
「はい」
「俺は陛下の目があって、公には動けない。
だが俺が引き留める。
警備も、視線も、全部こちらに集める」
頭の中で、動線が自然と組み上がっていく。
「……その間に、地下へ」
「そうだ」
短く、力強く頷く。
「危険な役回りだ。
それでもやるか?」
その問いは、試すためじゃない。
ただ、私の覚悟を確かめるためのもの。
私は迷わず答えた。
「やります」
ディランは、ふっと息を吐いて笑った。
「やはり、君だな」
そして、ほんの少しだけ距離を詰めて。
「約束だ」
「パーティーでは、俺の手を取れ」
「そして――」
声が落ちる。
触れたら壊れそうなほど、静かに。
「必ず、生きて戻れ」
「……はい」
その返事に、ディランの目がわずかに柔らかくなる。
「終わったら」
一瞬、感情が滲む。
「また、踊ろう」
任務のためのダンス。
そして、生き延びた証のダンス。
その約束が、胸の奥に深く刻まれた。
――この人となら。
どんな未来でも、きっと戦っていける。



