第5部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

「スーザ、ローゼ…刺客の件だが……」

ディランは、静かに切り出した。

「スーザとローゼには、国外への静養命令を出す。
 二度と、王都の政治には関わらせない」

淡々としているのに、迷いのない声。

「もちろん、婚約者候補からも外す」

胸の奥で張りつめていたものが、少しだけ緩む。

「そして、刺客については――」

短い沈黙。

「処刑はしない」

その言葉に、思わず息を呑んだ。

「だが、身分を剥奪する。
 以後、王国で剣を取ることを禁ずる。
 監視付きで、生かす」

はっきりとした線引き。
厳しいけれど、命までは奪わない。

その判断に、胸がすっと軽くなる。

「……ありがとうございます」

自然と、そう口にしていた。

ディランは、静かに首を振る。

「礼を言われることじゃない。
 この処遇を決めたのは――レオだ」

「……レオが?」

「ああ」

ふっと口元が緩む。

「“お嬢さんだったら、きっとこう言います”ってな」

「良い庭師……じゃないな」

くすっと笑って、

「料理人だ」

その言い方が妙に可笑しくて、思わず笑ってしまう。

「ふふ……確かに」

誰かを切り捨てるだけじゃない。
誰かの心を、ちゃんと考えた判断。

(……私の周り、ほんと頼もしい)

そんな私を見て、ディランは穏やかな目をしていた。

「君が望む未来を、少しでも守れるなら……それでいい」

その言葉は、静かで、まっすぐで。
胸の奥に、深く沈んでいく。

――この人となら。
本当に、戦える。