第5部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない


ディランに促され、部屋へ入る。

扉が閉まった瞬間、そっと腕を引かれ――
気づけば、ソファに並んで座らされていた。


「ち、近くないですかね」

思わず身を引こうとすると、

「そう?」

ディランは悪びれもせず、首を傾げる。

「君の声が、ちゃんと聞きたくて」

そう言いながら、指先が首元へ伸びる。
チョーカーの留め具に触れ、す、と外された。

「……っ」

ひやりとした空気が喉に触れ、思わず息が詰まる。

「キスしたいが……」

一瞬だけ、間を置いて。

「男装だと、違和感あるかな」

「い、今はしないですよ!」

慌てて否定すると、

「関係ないか」

ふっと柔らかく笑う。

「君は、君だ」

その言葉とともに、手が伸びてくる。

「いやいや、待って!」

慌てて制止すると、

「安心しろ。今回は無理矢理じゃない」

落ち着いた声で、さらりと言う。

「してほしそうな顔をしてただけだ」

「してません!」

「本当に?」

「ほ、ほんとです!」

じっと見つめられながら言い切ると、

「……そっか」

ディランは少しだけ残念そうに息を吐いた。

「それは、残念だな」

ほっとした――その瞬間。

「ちゅ」

頬に、軽い感触。

「――なっ、何するんですか!」

「頬ならいいかと思って」

「よくないです!」

即答すると、
ディランは肩を揺らして笑った。

「相変わらずだな」

からかうようでいて、どこか優しい目。

そして、ふっと声が落ち着く。

「でも……こうして君に触れると安心する」

その言葉は、甘さよりも温度があった。
胸の奥が、じんわりと熱くなる。