第5部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない


「……もし」

俺は一度だけ息を整え、まっすぐ殿下を見た。
怖さはある。けれど、それ以上に“言うべきこと”がある。

「お嬢さんだったら、こう言うと思います」

ディラン殿下の視線が、鋭く俺に向く。
その圧を正面から受け止める。

「ローゼ様とスーザ様については――
 もう、十分怖い思いをしたはずだと」

魔宝獣に襲われたと聞いた。
あれを経験したなら、もう二度と軽率な真似はできない。

「だから、お嬢さんには二度と近づけないようにして、
 表に出ない形で責任を取らせると思います」

一拍置き、はっきりと言う。

「……命までは、奪わない」

次に、刺客へ視線を向ける。
男は怯えていたが、俺は目を逸らさなかった。

「この人についても同じです」

「やったことは許されません」

だが、と続ける。

「陛下に使われただけなら……
 また、同じことが起きます」

俺は胸を張って言った。

「生かしたまま、
 二度と刃を握れないようにする」

それが、お嬢さんのやり方だ。
優しさと強さを両立させる、あの人らしい選択。