第5部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない


ひょこっと顔を出した。

「……なんだ。レオか」

ディラン殿下が、こちらを見る。
その目は冷静で、状況をすべて見透かしているようだった。

「聞いていたのか?」

「す、すみません……!」

慌てて頭を下げる。

「別に、聞かれて困ることではないさ」

淡々とした声。
責める気配はない――だが、温度もない。

「それで」

殿下の視線が、ローゼとスーザ、そして拘束された刺客へ向く。

「ローゼはティアナへ嫌がらせをしていたし、刺客への依頼も把握していた。
スーザは刺客にティアナを脅すよう依頼し、
刺客はそれを実行した」

まるで罪状を読み上げるように、淡々と。

そして――。

「刺客についてだが……レオ。お前はどうしたい?」

「え……?」

「大事なティアナの命を狙った者だ」

一拍。

「……殺すべきか?」

「へっ!?」

素っ頓狂な声が出た。

(い、いきなり重っ!?)

「い、いや……!」

慌てて首を振る。

「お嬢さん、そんなこと望んでません!」

「この人も……」

刺客を見る。

「殺す気はなかったって、言ってましたし!」

必死で言い募ると、
ディラン殿下はしばし黙り込んだ。

その沈黙が、やけに重い。
呼吸すらためらうほどの圧がある。

(……間違ったこと、言ってないよな?)

やがて。

「……そうか」

短く息を吐く。

その表情は冷静で――
どこか、深い疲労を滲ませていた。

「確かに、ティアナは命を奪うことを良しとはしない」

そう言ってから、
もう一度、刺客に視線を向ける。

「だが」

声が、わずかに低くなる。

「それで済む話かどうかは、別だ」

(……あ)

(この人、やっぱり覚悟が違う)

軽い気持ちで首を突っ込んだわけじゃない。
その覚悟の重さが、ひしひしと伝わってきた。