第5部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

「あれ……?」

視界の端で、違和感が引っかかった。

「……罪人?」

王国騎士団に挟まれ、
手を拘束された人物が裏手へ連れていかれている。

(式典前に、こんな動き?)

気づけば、体が勝手に動いていた。

音を立てないよう距離を保ちつつ、
すっと後を追う。

近くの木に飛びつき、
枝を伝って上へ。

葉の隙間から、下を覗き込む。

「……え」

見えたのは――

「殿下じゃん」

ディラン殿下。
それに、側近のレイさん。

そして。

「あの女の人……?」

どこかで見た顔だ。

(えっと、えっと……)

記憶をたどる。

「……あ! ローゼ、だっけ?」

ユウリが持ってた資料に載っていた、婚約者候補のひとり。

その瞬間。

――ローゼが、殿下に抱きついた。

「えっ」

「ちょ、近っ」

「殿下、それ浮気じゃない!?」

全力ツッコミ。

(顔、近い近い近い!)

「お嬢さんが悲しむやつー!」

……と思ったのも束の間。

殿下の表情は、甘くない。

(……あれ?)

空気が、思ってたのと違う。

「……真実、確かめないと」

そう決めた時には、
3人はすでに部屋の中へ消えていた。

「うわー……外からじゃ聞こえない」

扉は閉まり、声も漏れない。

(中、入れないかな)

周囲を見回し――

「……あ」

すぐ上。

「ベランダ、あるじゃん」

木の枝から身を翻し、
音もなくベランダへ移動する。

息を潜め、
そっと中の様子を探った。