「……テオ」
背後から、ほとんど息だけの声が落ちてきた。
「ユウリ……ウェイター様になってるね」
「それはどうも」
ユウリは軽く肩をすくめる。
その自然さは、役に溶け込むことに慣れた者の動きだ。
「そちらは、どうです?」
「北側の部屋は、やっぱり怪しい。
正面から入るのは厳しいな」
視線を逸らしつつ、周囲の気配を探る。
「裏側も、もう少し探ってみる」
「分かりました」
一拍置いて、ユウリが問い返す。
「そっちは? 何か進展は?」
「特には。……ただ、少し気になることが」
声がわずかに低くなる。
「ディラン殿下の両親が亡くなっているのは、知っていますか?」
「……ああ。まあ」
「その死亡事故について、妙な噂を少し耳にしまして」
「へぇ」
思わず、口の端が上がる。
ユウリが“妙な噂”と言うときは、だいたい本当に妙なやつだ。
「調べているところです」
「なるほどね」
一瞬だけ、互いの視線が交わる。
短いが、十分な確認。
「じゃあ、お互い気をつけよう」
「そうですね」
ユウリは、何事もなかったように一礼した。
「では」
そのまま、雑踏へと自然に溶けていく。
気配が消えるのが早い。相変わらずだ。
小さく息を吐き、再び壁へ視線を向けた。
(……さて。こっちも急がないとな)
静かに足音を消し、再び動き出す。



