アラン殿下は、肩をすくめた。
「噂程度だな。
私自身、ここには住んでいない」
「今回は式典のために来ただけだし」
「……そうでしたか」
思わず声が沈む。
「ただ……」
アラン殿下は、何気ない調子で続けた。
「北側の部屋に入るつもりなら――正面からはやめておいたほうがいい」
「え?」
「図書館だ。
禁書庫の奥から入るルートがある」
そう言って、机の上に紙を引き寄せ、さらさらと地図を描き始めた。
「この裏に、隠し扉がある」
「……なぜ、それを?」
問い返すと、
「まあ」
アラン殿下は、にやりと笑った。
「これくらいはね」
完全に誤魔化している。
「もし潜入するなら」
声が少し落ちる。
「王国創立記念式典の最中がいいだろう。
警備の目が一番散る」
そして――
ふざけた空気が、すっと消えた。
「……これだけは言っておく」
真っ直ぐ、こちらを見る。
「祖父は、ディランに異常なほど執着している」
「何か、よからぬことを企んでいるのは間違いない」
一拍置いて、
「弟を、頼んだよ」
その言葉に、私は迷わず頷いた。
「はい」
力強く。
横でセナも静かに頷いていた。



