アラン殿下は、ある部屋の前で足を止めた。
周囲を一度だけ確認すると、私たちを中へと招き入れる。
「ここなら誰にも聞かれない。
それで――何を探っているんだ? 男装してまで」
「陛下についてです」
「ああ……あの人か」
あまりにもあっさりとした返事。
「陛下が何か企んでいる気がします。
その証拠を探りに来ました」
「なるほど」
短く頷いたあと、アラン殿下はふと遠くを見るような目をした。
「そういえば……魔宝獣に襲われたそうだな」
「ええ。まあ」
「……陛下のやりそうなことだ」
自嘲めいた笑みが、口元にかすかに浮かぶ。
「あの人は昔からそうだ。
容赦がない。冷徹で――」
一拍置いて、低く続ける。
「使えるものは使う。
そして、不要になれば、すぐ切り捨てる」
胸の奥が、ひやりと冷えた。
「……ただ」
アラン殿下の声が、さらに沈む。
「ディランに対しては、異常だ」
「やっぱり……」
「教育は厳しかった。いや、それだけじゃない」
彼は淡々と語るが、その内容は重い。
「身体づくり、訓練、生活管理……
まるで陛下の都合のいい操り人形だ」
次期国王にするため――
その理由だけでは到底説明がつかない。
「そこにあるのは、底知れない暗さだ」
私は無意識に拳を握りしめていた。



