その直後――
「――楽しそうだな。弟の覗き見か?」
背後から、軽い調子の声が降ってきた。
「っ……!」
息が詰まり、反射的に振り向く。
そこに立っていたのは――
「アラン殿下……」
相変わらず余裕をまとった笑みを浮かべている。
「はは。よく似合ってるじゃないか、男装」
「ありがとうございます。アラン殿下のおかげです」
「いやいや。交換条件だっただろ?」
肩をすくめるアラン殿下に、私は思わず視線を逸らした。
「それにしても……」
彼は通路の奥へちらりと目を向ける。
「弟は、他の女性と密会か?」
「……そう見えますよね。ローゼ嬢は少し面倒だって言ってたのに」
「へえ」
「アラン殿下」
セナが静かに口を挟む。
「少なくとも、あれは甘い雰囲気ではありませんでした」
「ほう?」
アラン殿下が興味深そうに目を細める。
「ますます面白いな」
軽い口調とは裏腹に、その視線は鋭い。
「私と少し話さないか」
アラン殿下は軽く顎を上げた。
「何か探っているんだろう? ……力になる」
「ほんとですか?」
思わず前のめりになる。
「ああ」
迷いのない即答。
「ありがとうございます」
素直に礼を言うと、横からセナがそっと耳打ちしてくる。
「……大丈夫ですか? 信用して」
「大丈夫」
小さく笑って返す。
「この人、ブラコンだから」
「……は、はあ」
セナは明らかに納得しきれていない。
私は一歩前に出て、アラン殿下と向き合った。
「じゃあ、こっちだ」
踵を返すアラン殿下。
その背中を、私は迷わず追った。



