第5部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

ディランの気配が、はっきりと変わった。

(……来る)

次の一歩。
踏み込みの質が、これまでとはまるで違う。

木剣が一直線に――こちらの芯を貫きに来た。

(試してる……!)

考えるより先に、体が動く。

踏み込み、剣を弾き、角度を変え――

「……っ」

一瞬、ディランの体勢がわずかに崩れた。

ざわっ、と訓練場が揺れる。

「今の……」

「見たか?」

「殿下の剣、流した……?」

(しまった)

完全に、反応してしまった。

次の瞬間。

「――なるほど」

低く、静かな声。

ディランの表情から、余裕の笑みが消える。

(やば……本気)

重い一撃が来た。

木剣同士がぶつかり合い、手元に衝撃が走る。

受けきれない。

踏ん張る間もなく、剣を弾き飛ばされ――

「くっ……!」

体勢が崩れ、背中から地面に倒れ込んだ。

喉元に、木剣がぴたりと止まる。

「……ここまでだ」

訓練場が、静まり返った。

「負けました」

息を整えながら告げる。

ディランはしばらく私を見下ろし――
ふっと、口元を緩めた。

「面白い。新人とは思えない動きだった」

(やめて、褒めないで……)

周囲の騎士たちが、ざわつきを抑えきれずにいる。

「……何者だよ」

「新人ってレベルじゃないだろ」

(聞こえてる、聞こえてるから)

私は苦笑いしつつ身体を起こす。
――バレてはいないはず。

けれど確実に、目をつけられた。