「さて。王国直属騎士団の訓練メニューは、相当きついだろう?」
ディランが穏やかに続けた。
「それでも、ここまでついてきている。――立派だ」
「ありがとうございます」
自然と、騎士としての返答が口をつく。
「では、一勝負といこう。木剣でね」
「はい。お願いします」
短く礼を交わした瞬間――
「――始め」
その声と同時に、私は迷わず踏み込んだ。
木剣がぶつかり合い、乾いた音が訓練場に響く。
「……いいね」
ディランは余裕の笑みを浮かべている。
(こうしてディランと木剣を合わせるのは……いつぶりだろう)
懐かしさが、一瞬だけ胸をかすめた。
さすがだ。
剣筋は的確で、動きに一切の無駄がない。
(本当に、変わらない)
いや――
以前より、さらに洗練されている。
ディランの剣は、これまで何度も近くで見てきた。
けれど、こうして真正面から向き合うのは初めてかもしれない。
正確で、容赦がない。
こちらの癖を読むように、嫌なところばかりを突いてくる。
(……押されてる)
間合いを詰められ、木剣が鋭く伸びてきた。
一瞬。
直感に任せて、ひらりと身をかわす。
「……ほう」
ディランが、わずかに目を細めた。
再び剣が来る。
受けて、流して、下がる。
じりじりと後退を強いられる。
足元の土を踏みしめる感覚。
呼吸が浅くなり、木剣を握る手に力がこもる。
その時――
「……え?」
「今の、避けたよな?」
「新人、じゃないだろ……」
周囲から、ざわりとした声が広がった。
空気が、明らかに変わる。
ディランもまた、最初の余裕を消し、
こちらを “一人の剣士” として見据えていた。
(……まずい)
このままいけば、実力を出しすぎる。
――けれど。
ここで下がるのも、難しい。



