第5部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない


「さて。王国直属騎士団の訓練メニューは、相当きついだろう?」

ディランが穏やかに続けた。

「それでも、ここまでついてきている。――立派だ」

「ありがとうございます」

自然と、騎士としての返答が口をつく。

「では、一勝負といこう。木剣でね」

「はい。お願いします」

短く礼を交わした瞬間――

「――始め」

その声と同時に、私は迷わず踏み込んだ。

木剣がぶつかり合い、乾いた音が訓練場に響く。

「……いいね」

ディランは余裕の笑みを浮かべている。

(こうしてディランと木剣を合わせるのは……いつぶりだろう)

懐かしさが、一瞬だけ胸をかすめた。

さすがだ。
剣筋は的確で、動きに一切の無駄がない。

(本当に、変わらない)

いや――
以前より、さらに洗練されている。

ディランの剣は、これまで何度も近くで見てきた。
けれど、こうして真正面から向き合うのは初めてかもしれない。

正確で、容赦がない。
こちらの癖を読むように、嫌なところばかりを突いてくる。

(……押されてる)

間合いを詰められ、木剣が鋭く伸びてきた。

一瞬。
直感に任せて、ひらりと身をかわす。

「……ほう」

ディランが、わずかに目を細めた。

再び剣が来る。
受けて、流して、下がる。

じりじりと後退を強いられる。

足元の土を踏みしめる感覚。
呼吸が浅くなり、木剣を握る手に力がこもる。

その時――

「……え?」

「今の、避けたよな?」

「新人、じゃないだろ……」

周囲から、ざわりとした声が広がった。

空気が、明らかに変わる。

ディランもまた、最初の余裕を消し、
こちらを “一人の剣士” として見据えていた。

(……まずい)

このままいけば、実力を出しすぎる。

――けれど。

ここで下がるのも、難しい。