第5部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない


合宿3日目。

訓練場に、ざわりとどよめきが走った。

ディランが――木剣を手に、直々に姿を現したのだ。

「せっかくだ。今日は私が、皆の相手をしよう」

その一言で、場の空気が一段と引き締まる。

(これは……!)

私は勢いよく前に出ようとしたが、セナが慌てて腕をつかんだ。

「ちょ、怪我しますって!」

「えー! いいじゃん、やりたい!!」

「ダメですって!」

「だってさ、私が相手だと、あの人絶対本気出さないじゃん。
 こういう時しかできないんだって!」

「だからって……!」

小声で押し問答していると――

「……何をしている?」

低く落ち着いた声が、すぐ近くから降ってきた。

(――まずい)

反射的に背筋が伸びる。

ディランが、いつの間にか目の前に立っていた。

「やあ、セナ。アレンに、ロベルトも」

3人は一斉に姿勢を正し、深く頭を下げる。

そして、彼の視線が私に向いた。

「……君は、見かけない顔だな」

(来た……)

「期待の新人、ソラです。私の遠い親戚になります」

セナが、何でもないことのようにさらっと言う。

(そういう設定ね……了解)

「はい。ソラといいます。よろしくお願いします」

声色も変え、深く頭を下げる。
“親戚”という設定なら、まず怪しまれないはず。

「そうか……」

ディランは一瞬だけ私を見つめ、ふっと柔らかく笑った。

「では、どうだい? 私と軽く手合わせでも」

「い、いえ、それは――」

セナが慌てて前に出ようとした、その瞬間。

「やります! ぜひ、やらせてください!」

自分でも驚くほど、元気よく声が出た。

(今しかないでしょ!)

視界の端で、アレンとロベルトがそろって
「あー……」という顔をしている。

(その反応、やめて)