第5部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない


「え、なんだよ〜!
 そこは“そうです”とか“違います”とかあるだろ!」

ぐいっと距離を詰められる。

(ちょ、近い近い近い!)

「護衛騎士ってことはさ、
 ティアナ様の一番近くにいるんだろ?
 だったら色々知ってるよな?」

「……さあ、どうでしょう」

セナは表情ひとつ変えない。
だが、私にはわかる。
完全に“警戒モード”に入ってる顔だ。

「えー、教えてくれよ!
 殿下ってどっちが本命なんだ?」

「いや、だから……」

セナが困ったように眉を寄せる。

その横で――

「ソラ、お前はどう思う?」

突然、セナが話題をこちらに飛ばしてきた。


(やめてぇぇぇぇ!!)

「えっ、俺!?」

「そうだよな!新人でもさ、見てたらわかることあるだろ?
 ティアナ様ってどんな人なんだ?」

騎士団員が首を傾げる。

(どんな人って……本人だよ!!)

心臓が跳ねる。
背中に冷や汗がつーっと流れる。

「え、えっと……」

必死に“ソラ”としての顔を保ちながら、
言葉を探す。

「……頑張っておられると思います」

自分のことを評価するって…なんの拷問よ。

「へぇー!」

「殿下とはどうなんだ?」

「ローゼ嬢とは?」

「どっち派?」

(質問が増えてるぅぅぅ!!)

完全に逃げ場がない。

セナが横目でこちらを見る。
“落ち着いてください”という無言の圧。

(いや無理だろこれ!!セナがこっちに話題向けるから!!)

私は喉を鳴らし、
なんとか笑顔を作った。

「……新人なんで、ほんとにわからないです」

「つまんねー!」

「でもまあ、ティアナ様推しだな!おれは」

「俺も俺も!」

話題がまた勝手に盛り上がっていく。

私は心の底から安堵した。

(……危なかった……!)