……そのとき。
「……こほん」
わざとらしい咳払いが、静寂を破った。
視線を向けると、ユウリは困ったように口元を押さえ、アリスは露骨に目を逸らしている。
……あら。
完全に、見られてたわね。
その空気をさらに切り裂くように、低く冷えた声が響いた。
「――何をしている」
振り向いた瞬間、そこに立っていたのはディランだった。
「……ディ、ディラン」
ティアナちゃんがはっとして声を上げる。
彼の視線が、私の手と、赤く染まったティアナちゃんの頬を捉えた。
一瞬で、空気が凍りつく。
「随分と……距離が近いようだな」
笑っていない。
むしろ、笑っていないことを強調するような声音。
……ああ。
これは、完全に地雷を踏んだわ。
私は肩をすくめ、わざと余裕の笑みを浮かべる。
「誤解しないでちょうだい、殿下」
ちらりとティアナちゃんを見る。
「可愛がってただけよ」
――火に油。
ユウリは深いため息をつき、アリスは視線を逸らし、ティアナちゃんは真っ赤になって固まっている。
ディランのこめかみが、ぴくりと動いた。



