第5部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

――そこで、回想はふっと途切れた。

「失礼します」

ノックと同時に扉が開き、ユウリが静かに入ってくる。手には、見覚えのある小さな箱。

「わあ……!」

思わず声が弾んだ。

「それ、あそこのカフェのマカロンじゃない!」

懐かしい香りがふわりと広がり、胸の奥がきゅっと締めつけられる。

「はい。お嬢様が、休憩にと」

ユウリは柔らかく微笑み、箱をテーブルにそっと置いた。

……あの頃と、変わらない。

ふと視線を上げると、ティアナちゃんがこちらを見ていた。

「懐かしいよね。久々に食べたくなっちゃって」

昔と同じ、穏やかな笑み。

「ほんと……あの時、ティアナちゃんに会えてよかった」

しみじみと言うと、彼女はくすっと笑った。

「でも最初、すごく渋ってたよねー」

「そりゃあ、そうよ。あんな小さな子が急に“ドレス作って”なんて言うんだもの」

思い出して、私も笑う。

けれどティアナちゃんは、ふっと表情をやわらげた。

「でもね。変わらないわ」

真っ直ぐに私を見つめる。

「貴女が、一番……私のドレスを輝かせてくれる人」

胸の奥がじんわりと熱くなる。
過去と現在が、静かにひとつにつながった気がした。

私はマカロンをひとつつまみ、サクッとした食感を楽しむ。
指先についたカスをぺろりと舐めた瞬間、ティアナちゃんと視線がぶつかった。

その瞳が、ほんの少しだけ揺れた気がした。