第5部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない


目を丸くしてティアナ様が私を見つめた。

「さっきね、使用人の人が言ってたの。“貴族の方は、あなたが作るドレスなんて着ない”って」


「ふーん」

まるで面白い話でも聞いたかのように、どこか楽しそう。
短く間を置いて、彼女はにこりと微笑んだ。

「とりあえず、見せてよ」

その笑顔に、胸の奥がきゅっと締めつけられる。私は黙ってドレスを差し出した。

――そして。

彼女が身にまとった瞬間。

「すごい、すごい!!」

ぱっと表情が輝き、目がきらきらと揺れる。

「ルイ、これ……すごくいい感じだよ!」

嬉しそうに、その場でくるりと回った。布がふわりと広がり、まるで彼女のために生まれたように完璧に馴染んでいる。

……ああ。
作ってよかった。

心の底から、そう思えた。

「ルイ、ありがとう!」

弾む声とともに、差し出された代金を受け取る。

……これで、終わりだ。

胸の奥に、じんわりと名残惜しさが滲む。

「これ返しますね」

お店の鍵も返した。何か言いたげな彼女の視線を見ないように、軽く頭を下げてその場を離れようとする。

「ルイ、またね」

その一言に、思わず足が止まった。
胸の奥で、その言葉が静かに反響する。

――また、か。

たったそれだけなのに、なぜか少しだけ救われた気がした。