第5部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

「で、――できた。」

小さく息を吐き、そっとドレスから手を離した。完璧だ。もうどこにも手を入れる必要がない。胸を張って差し出せる、そう思える一着だった。

私は迷わず伯爵家へ向かった。胸の奥は緊張でざわついていたが、足取りは軽かった。

「ドレス? あなたが……作ったものを?」

玄関先で声をかけると、使用人が怪訝そうに眉をひそめた。次の瞬間、鼻で笑われる。

「お嬢様のパーティーには、名だたる貴族の方々がいらっしゃるんですよ?」

ひそひそと囁き合う声が耳に刺さる。

「あなたみたいな、よく分からない方のドレスを……お嬢様が着られると思っているんですか?」

……それも、そうだ。

胸の奥がきゅっと縮んだ。住む世界が違う。私は何を勘違いして、舞い上がっていたんだろう。静かに踵を返そうとした、そのとき。

「待ってください。ルイさん、ですね」

呼び止められて振り返ると、そこにいたのはティアナ様の傍にいつも控えていた執事だった。私と歳はそう変わらないが、背筋が伸び、きちんとした佇まいの人だ。

「ユウリといいます。こちらへ」

丁寧にお辞儀をし、静かに案内してくれる。扉の先から、聞き慣れた声が弾むように響いた。

「あれ? ルイ、どうしたの?」

「ドレスが……完成しまして」

「え! はやい!! ありがとう!!」

ぱっと笑顔になり、勢いよく手を伸ばしてくる。

――が。

私は反射的にその手を避けてしまった。彼女の手が空を切る。

「……?」

不思議そうに首をかしげるその顔が、胸に刺さった。