第5部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

「……やらせてください」

その言葉が口をついて出た瞬間、自分でも驚くほど胸の奥が熱くなった。ティアナ様はぱっと花が咲くように笑い、世界が一瞬明るくなったように見えた。

「やった!」

その無邪気な笑顔に、心が少しだけ揺れる。

「ちなみにね。ちょうど今月末にパーティーがあって、そこで着たいんだ!」

「……え?」

胸の奥で嫌な予感が跳ねた。

「いそぎだけど、いけるかな?」

「それ、先に言いなさいよ!」

思わず本音がこぼれる。けれど、文句を言いながらも、胸の奥では別の感情が燃え上がっていた。

やるしかない。いや、やってみせる。

それから私は、任務の合間を縫って、ひたすらドレス作りに没頭した。
デザインを引き直し、仮縫いをして、ほどいて、また縫う。
何度も、何度も試作を重ねる。
布と向き合う時間は驚くほど満たされていて、針を動かすたびに心が静かに高鳴った。
気づけば夜が更けていることもあったが、それすら苦ではなかった。

ティアナ様は、時折ふらりとお店を覗きに来た。
紅茶や甘い焼き菓子を差し入れてくれ、

「無理しすぎないでね」

と優しく声をかける。
そのたびに、嬉しそうに作業を眺めていく。

押しが強いのに、どこか優しくて、こちらの気持ちを急かさない。不思議な子だと思った。

でも、このドレスだけは絶対に妥協しない。
伯爵家の令嬢だからでも、初めての依頼だからでもない。

あのとき、彼女が見せた笑顔に応えたいと、心のどこかで思ってしまったからだ。

その思いが、針を進める手を支えていた。