第5部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない


「……ここは?」

思わず足を止めて、呟いてしまった。

「空き店舗よ。私が買い取ったの」

まるで大したことじゃないみたいに、ティアナ様は言う。

「まだ中は整ってないけどね」

扉が開いた瞬間、息が詰まった。

店内には、装飾用の布がびっしりと並び、
新品の最新式ミシン、裁ちばさみ、糸巻き。
棚には、色とりどりのリボンやボタンがぎっしり。

――すごい。

気づけば、一歩踏み出していた。

ここは……宝の山だ。

指先が無意識に布へ伸びる。
質感を確かめるだけのつもりが、
頭の中ではもう、形が浮かび始めていた。

「ここ、好きに使っていいからさ」

背後から、あっさりとした声。

「一着だけ。私のドレス、作って?」

……なんてことを言うの、この子は。

正直、やりたい。
こんなに整った設備で、
こんなに自由に、
好きなものを作れるなんて。

胸の奥で、何かがうずうずと騒ぎ出す。

そんな私の心を見透かしたように、
彼女はさらに甘い言葉を重ねた。

「ここにある布も、何でも使っていいよ」

さらりと。

「他に作ったものがあったら、それも持って帰っていいし」

――だめだ。

これは完全に、落としにきてる。

視線をそらしながらも、
もう一度ミシンに目が吸い寄せられる。

……抗えるわけがなかった。