さて、と。
時間を確認して、私はすっと立ち上がった。
……そして。
任務を終えた帰り道で気づく。
――スケッチブック、忘れた。
思い当たるのは、あのカフェしかない。
慌てて戻ったものの、店の灯りはすでに落ち、扉は固く閉ざされていた。
……仕方ない。
「明日、もう一度行ってみるか」
そう自分に言い聞かせ、その場を後にした。
翌日。
「あの……昨日、スケッチブックを忘れてしまったのですが。こちらに、ありませんでしたか?」
恐る恐る尋ねると、店員は申し訳なさそうに首を横に振った。
「いえ……見当たりませんね」
胸が、すとんと落ちる。
……やっぱり、ここしか思い当たらないのに。
そう思った、そのとき。
「探しているのは……これ、ですか?」
鈴が鳴るような、澄んだ声。
思わず顔を上げて、息を呑んだ。
――綺麗な子。
色白の肌。
すみれ色と淡い桃色が溶け合った髪。
蒼い星空を閉じ込めたような瞳。
年若いのに、不思議と目を離せなかった。
それが――ティアナちゃんの、第一印象。
「あ……ありがとう」
ようやく言葉を絞り出し、受け取ろうと手を伸ばす。
……が。
ひょい、と。
スケッチブックが軽々と持ち上げられた。
「……ん?」
「相席しても、いいですか?」
そう言って浮かべられた笑顔は、無邪気で、堂々としていて、どこか人を巻き込む力があった。
気づけば私は、反射的に頷いていた。
――このときは、まだ知らなかった。
この小さな少女が、
私の人生を、もう一度“縫い直してくれる”存在になることを。



