第5部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

6年前。

ルイ、18歳。
ティアナ、12歳。


私は、昔から服を作るのが好きだった。
布に触れ、形を考え、誰かに似合う一着を想像する――その時間が、何より幸せだった。

けれど、母が亡くなり、家は一気に傾いた。

父は酒に溺れ、気づけば借金まで背負っていた。
まだ幼い双子の妹たち。
泣き声を聞くたびに、胸の奥がぎゅっと締めつけられた。

――夢を追っている場合じゃない。

何度も、何度も、自分にそう言い聞かせた。

幸い、私は魔宝石の適性を持っていた。
そのおかげで王国騎士団に入り、やがて公爵家付きの騎士として働くことになる。

収入は安定した。
屋根のある家と、温かい食事が手に入った。

……やりたい仕事ではなかったけれど。

それでも、妹たちが笑って生きていけるなら。
私が我慢すれば、それでいい。
あの頃の私は、そう信じて疑わなかった。

遠征任務のため、私は1か月ほどラピスラズリ伯爵家の領地近くに滞在することになった。

任務の合間、時間を見つけてよく立ち寄るカフェがある。
香りのよい紅茶と、添えられるマカロンがとても美味しい店。

束の間の休息。
私はテーブルにスケッチブックを広げ、ドレスのデッサンを描き始める。

……やっぱり、好きなことはやめられない。

これはもう、趣味だ。
誰に見せるわけでもない、私だけの時間。

合間を縫って少しずつ仕立てたドレスを、妹のエマとサラに着せるのが何よりの楽しみだった。
くるりと回ってはしゃぐ2人の姿を思い浮かべると、自然と頬が緩む。

――けれど。

父は、それを馬鹿にしていた。

「そんな、金にもならないことをするな!」

怒鳴り声が、今も耳に残っている。

……母がいた頃は、こんなふうじゃなかったのに。
あの人が笑ってくれていた頃は、この家も、もう少しだけ温かかった。