第5部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

一区切りしたところで、

「俺は、これで帰るとしよう」

ディランが静かに席を立つ。

「わかりました。……見送ります」

「それは、ありがとう」

部屋を出て、扉が閉まる。

――二人きり。

さっきまでの喧騒が嘘のように、空気がしんと静まり返った。

私はひとつ息を整え、口を開く。

「ディラン……」

名前を呼んだだけで、胸がきゅっと締めつけられる。

「私は、ジョルジュ陛下が信用できません」

慎重に言葉を選びながら続ける。

「なにか……とんでもないことを考えている気がするんです」

ディランは否定も驚きもせず、ただ短く頷いた。

「ああ」

その反応に、覚悟が固まる。

「……ディランのご家族を悪く言いたいわけではありません。でも――それを、確かめたいんです」

沈黙。

ほんの一瞬、迷いがよぎったように見えて、思わず視線を上げる。

「大丈夫だ」

低く、はっきりとした声。

「前にも言っただろ」

一歩近づき、まっすぐに見つめてくる。

「俺が一番大事なのは――きみだ」

迷いのない瞳が、逃げ場のないほど真っ直ぐに私を捉える。
誠実で、強くて、揺るがない。

その視線に、胸の奥が熱くなった。

――この人は、選んだんだ。
迷わず、私を。