第5部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

暖炉の火が、ぱちりと小さく弾けた。

湯気の立つティーカップが並び、甘い香りが部屋いっぱいに広がる。

「はい、どうぞ」

ユウリとアリスが手際よくお茶を配っていく。

……平和。
見た目だけは。

「それにしても」

ルイが、わざとらしくカップを口元に運びながら言った。

「さっきの玄関、なかなか名シーンだったわね」

「ルイ」

即座に、セナが低い声で制する。

「え? なに?」

悪びれない笑顔。

「仲直りした瞬間に雪って、演出完璧じゃない?」

「……」

ディランが咳払いをひとつ。
視線はカップに落としたまま、こちらを見ようとしない。
耳が、赤い。

「殿下」

テオがじろりと睨む。

「お嬢様、大事にしてよ。次はないからね」

「……承知している」

間髪入れず返る真面目な声。
――だから余計に目立つ。

アレンとロベルトは顔を見合わせて、

「なんか……あったかいですね」

「雪なのにな」

と、よくわかっていないまま微笑んでいる。

私はというと――
……落ち着かない。

隣に座るディランとの距離が、近い。
さっきまで抱きしめられていた温もりが、まだ肌に残っている。

「……お茶、冷めるよ」

小さく囁かれ、心臓が跳ねた。

「……あ、はい」

カップを持つ手が、わずかに震える。

その様子を見て、ルイが満足そうに頷いた。

「うん。完全に仲直りね」

「……」

誰も否定しなかった。

暖炉の火と、紅茶の湯気に包まれる。