第5部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

「ディラン?」

「……もう少しだけ」

耳元に落ちる声は、低くて、熱くて、どうしようもなく甘い。

「……はい」

小さく答えると、私もそっと抱き返した。

そのとき――

はらり、と白いものが頬に触れる。

「……雪だ」

見上げると、静かに降り始めていた。

「ですね」

吐く息が白く揺れる。

「さすがに……冷えるな」

名残惜しそうに腕がほどかれる。

「……中、行きましょうか」

そう言って、ディランは私の手を取った。

今度は、離さないように。
指を絡めたまま、ふたり並んで歩き出す。

雪の中、手の温もりだけがやけに鮮明で――
胸の奥が、じんわりと甘く満たされていった。