第5部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

「デ、ディラン……?」

腕に込められる力が、ほんの少し強くなる。

「心配してた……ずっと」

耳元に落ちる声は、震えるほど真剣で、胸の奥が熱くなる。

「はい」

返事をすると、ディランは息を吸い込むように続けた。

「こんなことになるのなら……王妃教育の場になんて連れ出さなければ良かった」

「それは仕方ないですよ」

「それでも、だ。君を危険に晒した」

ディランの声が、耳に、胸に、深く響く。

「平気ですよ。確かに王妃教育は大変でしたけど……」

言葉が自然とこぼれた。

「でも、ディランと授業をサボって散歩したのも、侍女になりすまして、まんまと見つかったのも……なんか、ちょっと楽しかったです」

素直な気持ちが、あふれ出る。


「こんな醜い嫉妬も、弱さも……君に見せたくなんてなかった」

その声は、触れたら壊れそうなほど弱くて。

「いいじゃないですか」

私はそっと微笑む。

「私は、完璧な王子より……弱さも、狡さも、嫉妬もある、いまのディランが好きですよ?」

ディランの肩が、わずかに震えた。

「君は本当に……カッコつけさせてくれないな」

そう言いながら、さらに腕に力がこもる。