「ねぇ。まだ、こっち向かないの?」
「……」
……ほんと、頑固。
しょうがない。
ちょっとだけ、ずるをしよう。
私は、ディランの服をつかんでいた手をそっと離した。
「わっ! 足が……!」
大げさに声を上げ、その場にしゃがみこむ。
「えっ!?」
慌てた声と同時に、ディランが勢いよく振り向き、私の目の前にしゃがみこんだ。
「どうした!? やっぱりどこか怪我でもしてるのか!」
心配でいっぱいの顔が、すぐそこにある。
その距離に、胸が少しだけ痛くなる。
――今だ。
私はディランの襟を、ぐっと引き寄せた。
ちゅっ。
触れたのはほんの一瞬。
でも、世界が止まったみたいだった。
「これで、おあいこね」
そう言って笑うと、ディランは固まったまま両手で顔を覆った。
耳まで真っ赤。
「……ほんと、きみは……」
指の隙間から漏れる、かすれた声。
「……ずるいな……」
その瞬間、手を引かれた。
驚く間もなく、強く――でも乱暴じゃない力で抱き寄せられる。
胸に閉じ込められて、息が詰まりそうなほど近い。
……近い。
鼓動が、触れそう。
でも、不思議と怖くなかった。
ずっと欲しかった温もりだったから。



