第5部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

「ダメです。ティアナは俺のなので」

ディランがすっと私の腰を引き寄せた。
その動きがあまりに自然で、思わず心臓が跳ねる。

「貴方のものでもないけどね」

反射的に突っ込むと、
アラン殿下が楽しそうに笑った。

「はは、仲が良いね」

軽く肩をすくめるその姿は、
さすが王になる男の余裕があった。


「さて、ティアナ。約束、覚えているか?」

「約束ですか?」

「そうだ。
また踊ろうと言っただろう?」

「ああ……そうでしたね」

ふっと笑みがこぼれる。

「では、お手をどうぞ。お姫様」

「喜んで」

ディランが私の手を取り、
そのまま自然に腰へと手を添える。

前に踊った時とは違う。
戦いの緊張も、迷いも、もうない。
ただ甘くて、優しい時間だけが流れていく。

ふと、ディランのカフリンクスが目に入った。

「それ、アラン殿下から?」

「ああ。君と選んだと聞いた」

「私はただ、ディランの話をしていただけですよ」

「へぇー。何を話してたか気になるな」

くるりと回され、ドレスの裾がふわりと広がる。

「ディランが可愛いって話ですよ」

「なんだ、それ。
どうせなら“かっこいい”がいいんだけどね」

苦笑しながらも、どこか照れている。

「そうですか?
私はどっちも好きです。
子供みたいに拗ねるディランも、
堂々として頼りになるディランも」

言葉が自然とこぼれた。
胸の奥にしまっていた気持ちが、
音楽に溶けるようにあふれ出す。

目の前のエメラルドの瞳が一瞬驚き、
すぐに柔らかく細められた。

その微笑みは、
今まで見たどんな表情よりも優しかった。