第5部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

演奏が終わり、会場を包む拍手の中を歩いて仲間たちのもとへ向かう。
胸の奥にまだフルートの余韻が残っていて、指先がほんのり温かい。

その途中――

「おい、妹!
42小節目から走りすぎだ!
合わせるの大変だっただろうが!」

マルクが怒りをあらわにして詰め寄ってくる。

「少し気分が乗っちゃって。
でもさすがお兄様!ちゃんとついてきてましたね」

「当たり前だ!
置いていかれたらたまったもんじゃないからな!」

ふんすふんすと鼻息荒く文句を言う兄に、思わず笑ってしまう。


「お嬢様、お疲れ様でした」

ユウリが穏やかに微笑む。

「お嬢様、お見事でした」

セナが真面目に言い、

「お嬢さん、すごかったな!!」

レオが目を輝かせ、

「本当綺麗だった」

テオがうっとりと呟き、

「ええ、素敵だったわよ」

ルイが優雅に微笑む。

次々に褒められて、胸がくすぐったくなる。

「ありがとう」

自然と笑みがこぼれた。


「お嬢様……剣だけじゃなくて、お淑やかなこともできたんですね」

セナがぽつりと呟く。

「失礼だなぁ。
一応、伯爵家の令嬢だから」

ふふんと胸を張ってみせると――

「ほんと可愛げないだろ。
なんでもそつなくこなしやがって」

マルクがまだ文句を言っている。

でも、その声はどこか誇らしげで、
兄なりに嬉しいのだとすぐにわかった。

フルートを抱えたまま、
私はそっと息をつく。

剣を握る時とは違う、
静かで柔らかな達成感が胸に広がっていた。


「お嬢様素晴らしかったです。
フルートはこちらでお預かりします。」


「ありがとう」

アリスが私のフルートを受け取ってくれた。