第5部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

1ヶ月後。

「では、お世話になりました」

深く頭を下げると、胸の奥がじんわりと熱くなる。
長かったようで、あっという間だった。
片付けも落ち着き、城の空気もようやく平穏を取り戻しつつある。
ただ、王位継承の準備だけはまだ慌ただしく、正式な発表はこれからだ。

「本当に帰るのか?」

腕を組んだディランが、わかりやすく不満そうに眉を寄せる。
その表情が、少しだけ愛おしい。

「伯爵家の方も心配なので」

「そうそう、俺たちも暇じゃないんだよー」

テオがゆるく笑う。

「すぐ会いに行く」

ディランが当然のように言うので、思わず笑ってしまった。

「来なくていいよ」

テオが即座に突っ込む。

「テオには言ってないが」

「はいはい、そうですか」

2人が軽く睨み合う。
……本当に、いつも通り。

そんな中で――

「ティアナ」

名前を呼ばれた瞬間、ディランの手がすっと伸びてきて、
気づけばその腕の中にいた。

「あ、あのっ!」

驚きで声が裏返る。
周囲の視線が一斉にこちらへ向くのがわかる。

「また会いに行く」

低く、落ち着いた声。
耳元で響いて、心臓が跳ねる。

「……はい」

「愛してる」

「はいっ!? い、今ここで言うことですか!?」

顔が一気に熱くなる。
よりによって、みんなの前で……!

慌ててディランから離れると――

「あらあら〜お熱いわね」

ルイが頬に手をあてながら笑う。

「全くさ」

テオが呆れたように言い、セナが肩をすくめる。

「仲良しだな!!」

レオの明るい声が響き、場が一気に賑やかになる。

アレンとロベルトは、気まずそうにそっぽを向いていた。

「お嬢様、帰りましょう」

ユウリが穏やかに微笑み、アリスも静かに頷く。

私は深呼吸して、元気に返事をした。

「うん」

胸の奥が少しだけ寂しい。
でも――また会える。
そう思えるだけで、足取りは軽くなる。