第5部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない


「これは……」

箱の中には、上質な銀のカフリンクスが収まっていた。
装飾は控えめで、王族らしい品の良さだけが静かに光っている。

思わず指先でそっと触れた。

「よければ使ってくれ。」

兄の声はどこか照れくさそうだ。

「……ありがとうございます。」

「どうしてこれを俺に?」

「ん? 弟と仲良くなりたいからだよ。
いままで、すれ違ってばかりだったからね。」

「はあ……」

俺は曖昧に返しながらも、胸の奥が少しだけ温かくなる。

兄は続ける。

「私が王になるのはいいが――
ディラン、お前にもきちんと働いてもらうからな。」

「それは……わかってます。」

「そうか。ならいい。」

兄は満足そうに笑った。
その笑顔は、王族としての威厳よりも、
ただ弟を大切に思う兄のそれだった。