第5部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

「随分と余裕があるね」

ディランがニヤリと笑う。
その目は、さっきまでの穏やかさとは違う熱を帯びていた。

「え?」

「俺はこんなにも君に乱されてるのに」

低く落とされた声が、胸の奥をくすぐる。
手を取られ、指が絡まる。
そのまま、首元にそっと唇が触れた。

「ひ、ひいっ!」

「すごい声だな」

「へ、変なところにしないでくださいよ!」

「ふふ。君が悪い」

「……」

思わず睨みつけると、ディランは楽しそうに目を細めた。

「そんなに見つめられると照れる」

「見つめてません。睨んでます」

「そうか。可愛いな」

「……この王子は」

胸の鼓動が落ち着かないまま、言い返す。

コンコン。

「殿下、入りますよ」

ガチャッ。

レイさんが入ってきた。

「あ」

ディランの間の抜けた声が漏れる。
私も反射的に背筋が伸びた。

「……ち、ちがいます!」
私は慌てて否定する。

しかし、部屋に入ってきた仲間たちは一瞬固まり――

「何してるんです?」
「はあああ!?」
「お、お嬢さんが!!」
「離れろ!」
「肋骨全部折るか」
「そうしましょう」

ユウリ、ルイ、レオ、セナ、テオ、アリスが、
まるで合唱のように一斉に声を上げた。

ディランはため息をつき、私の手をそっと離す。

「……誤解だ」

「誤解じゃないでしょう!!」

レイさんの怒号が部屋に響いた。