第5部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない


「お嬢様」

「なに?」

「傷、痛みますか?」

セナの手がそっとの頬のガーゼへと伸びる。
触れられる寸前、指先の温度が伝わってきて、心臓が少し跳ねた。

「大丈夫。
セナとテオが来てくれたから」

そう言って笑うと、セナの表情が一瞬だけ揺れて手をそっと下ろす。
その揺れが、なぜか胸に刺さる。

「その顔…少し自分を責めてますね」

「え?なんでわかるの!」

「お嬢様のことはお見通しです。
どうせ、また“私がもっと強かったら”とか思ってるんでしょう?」

図星を刺されて、言葉に詰まる。
自分の弱さを見透かされるのは、恥ずかしいのに、どこか安心する。

「え、エスパー?」

真面目に聞いてみると、セナが柔らかく笑った。

「お嬢様は強いですよ。力だけじゃない。何より、心が」

その言葉が胸に染みた。

「そうやってさ…みんな甘やかす」

「いいじゃないですか。いっぱい頑張ったんですから。甘やかされたって」

そう言って、セナの手がそっと頭を撫でる。
その優しさに、思わず目を伏せた。
触れられるたび、心の奥の不安が溶けていく。

「間に合って良かったです。
俺も、もっと精進します」

その声は、まっすぐで、温かくて。
“守りたい”という気持ちが、言葉の端々から滲んでいた。