「……怖かったんですね」
静かで、優しい声。
「お嬢様が弱いからではありません。
大切な人を傷つけたくないと思う——その気持ちがあるからこそ、迷いが生まれるんです」
ゆっくりと顔を上げ、まっすぐに私を見る。
「それでも前に進んだ。
恐怖を抱えたまま、立ち向かった。
それは強さです。誰よりも」
胸の奥に、じんわりと温かいものが広がる。
「……ありがとう」
そう言うと、ユウリはふっと柔らかく笑った。
「いえ」
「あーあ。ユウリの前だと、ほんとカッコつかないなー」
ソファに寄りかかり、天井を見上げる。
「カッコつける必要はないですよ?」
「だってさ。私は私を好きでいるために……
カッコよく、凛としていたいんだよ」
「それはわかりますけど。ですが——」
ユウリは少しだけ表情を和らげ、静かに続ける。
「私の前では、無理に取り繕う必要なんてありません。
私はお嬢様の執事です。ずっと味方です。なにがあっても」
その声は穏やかで、けれど揺るぎない。
「ダメなところも、弱音も、吐き出してください。
それが私の勤めです」
その言葉は誓いのようで、押しつけがましさはなく、ただ真っ直ぐだった。
「ほんと、頼もしいね」
「そうですよ。だから自分を卑下しないでください。
むしろ——お嬢様は、周りをもっと頼ってくださいね」
紅茶の湯気がふわりと揺れ、静かな部屋に優しい温度が満ちていく。



