第5部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない


「そちらは、大丈夫でしたか?
魔宝獣が出ていたようですが」

ユウリが落ち着いた声で問いかける。

「ああ、こっちは大丈夫だ。
負傷者はいるが、死人は出ていない」

アラン殿下の言葉に、胸の奥がふっと軽くなる。

「よかった……」

思わず息が漏れた。
緊張がほどけ、身体の力がゆっくり抜けていく。

アラン殿下は、仲間たちの騒がしさを見守りながら、
ふっと優しく笑った。

「……本当に、良い仲間に恵まれているな、ディラン」

「はい。……自慢の仲間です」
ディランが誇らしげに答える。

「ディラン」

「兄上」

2人の視線が静かに交わる。

「……終わったな」

「はい」

「よくやった」

その言葉に、ディランは目を丸くした。
驚きと、どこか信じられないような表情。

私はそっとアラン殿下に目配せする。
殿下はふっと柔らかく笑った。

「ディラン。お前を誇りに思う」

「……ありがとうございます」

アラン殿下はゆっくりと歩み寄り、
弟の肩をそっと掴んだ。

そして――
そのまま強く抱きしめる。

「……もう一人で背負わせない」

ディランの肩がわずかに震えた。

「……はい」

アラン殿下は弟の背を何度も叩きながら、
押し殺した声で続ける。

「本当に……よかった。
生きててくれて……」

その言葉に、ディランは目を閉じ、
静かに息を吐いた。

そしてようやく、肩の力を抜き、
柔らかく笑みを返す。

アラン殿下は次に私へ向き直る。

「ティアナ嬢」

「はい」

「弟を……ありがとう」

その言葉は、静かで、まっすぐで、温かかった。

「……はい」

私は深く頷いた。

崩れゆく迷宮からの脱出、
激しい戦い、
そして再会。

すべてがようやく、
ひとつの終わりを迎えたのだと実感した。