第5部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

私はゆっくりと目を開けた。

視界に映ったのは――
必死に立ち続けるディランの姿。

その背後では、ジョルジュの影が頭を抱え、苦しげに呻いていた。

「や……やめろ……!!!」

影がディランの身体にまとわりつき、
黒い腕を伸ばして彼を再び闇へ引きずり戻そうとしている。
その度に、ディランの身体が小さく震えた。

胸が締めつけられた。
――まだ、戦っている。

私は一歩、前へ踏み出した。

その瞬間、戦っていた仲間たち――
ユウリ、レイ、セナ、テオが、まるで合図を受けたかのように動きを止めた。

ユウリが静かに告げる。
「……お嬢様」

レイは剣を下げ、深く頭を垂れる。
「殿下を……頼みます」

セナは氷の剣を引き、ティアナの背中を守るように下がった。
「行け。ティアナ」

テオは紅い魔力を収め、にやりと笑う。
「最後は……お嬢様の番だ」

4人の視線が、私の決意を押し出す。
胸が熱くなった。
――みんな、信じてくれている。

私は剣を構え、ディランへ向けて歩み出た。

「ディランは返してもらう」

蒼い光が刀身に宿り、空気が震える。
私の想いが、刃に乗って脈打つ。

深く息を吸い、詠唱を紡ぐ。

「蒼き想いよ――
切り離せ、ラピスラズリ!」

蒼い風が渦を巻き、
私の想いが刃となって放たれる。

その一閃は、影だけを正確に断ち、
ジョルジュの魔の手をディランから引き剥がした。

影が悲鳴を上げ、霧のように散っていく。

ディランの身体がふらりと揺れ、
私は駆け寄ってその身体を抱きとめた。

「……もう、大丈夫だから」

腕の中の温もりが、確かに“彼”のものだった。
蒼い光が静かに消えていく。

私はその胸に顔を寄せ、震える声で囁いた。

「おかえり、ディラン」