第5部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない


「ジョルジュ陛下……話があります」

迷いなど一片もなく、俺は祖父の私室へ踏み込んだ。

「なんだ、ディラン。ずいぶん早く戻ったな」

相変わらずのんびりとした声。
まるで、城で何も起きなかったかのように。

「……ティアナを危険に晒しましたね」

視線を逸らさず、真正面から睨みつける。

「危険? まさか」

陛下は肩をすくめ、軽く笑った。

「彼女が、自分で対処してくれただけだ」

「――そう仕向けたのは、あなたでしょう!」

喉の奥から、氷のように冷たい声が漏れた。

「うむ。しかし、あの力……実に見事だった」

「彼女を国のための道具にするつもりなら、やめてください」

一歩も退かず、言葉を叩きつける。

「ふむ」

祖父は、じっと俺を見据えた。

「……そこまで、彼女が大切か」

「当たり前です」

迷いなど、最初からなかった。

「……わかった」

陛下は小さく息を吐いた。

「ただ、あの娘は嗅ぎ回りすぎる。大切に思うなら――お前がきちんと囲っておけ」

そう言って、緩く笑う。

……この人は。

「わかりました」

俺は一礼すらしなかった。

「彼女に、これ以上何かするなら――」

視線を逸らさず、静かに言い切る。

「私は、あなたを許しません」

王に向けるべき言葉ではない。
それでも、引く気はなかった。

そうして俺は踵を返し、部屋を後にした。