第5部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

セナが静かに剣を掲げた。
その動きは、冷たく澄んだ水面をなぞるように滑らかだ。

「我が剣に従え――アクアマリン」

淡い青白い光が刀身を包み、
空気が一瞬で凍りつく。
氷の魔力が剣先から溢れ、斬撃の軌跡に白い霧が舞った。

その凍気は、確実にジョルジュの動きを奪っていく。

続いて、テオが地を蹴り、前へと躍り出た。

「紅く、鋭く――我が想いに応えよ、スピネル」

深紅の魔力が刀身を染め上げ、
黒に近い紅が空気を揺らす。
その刃は、怒りと決意そのものだった。

テオの一撃は迷いを断ち切るように鋭く、
セナの氷の軌跡をなぞるように走る。

――普段は喧嘩ばかりの2人なのに。
今は驚くほど息が合っている。

セナが凍気で動きを鈍らせ、
テオがその隙を逃さず叩き込む。

テオの紅が道を切り開き、
セナの氷がその道を固める。

まるで長年の相棒のように、
互いの動きを読み合い、補い合っていた。

ガンッ!
ドッ!

「ぐっ……!」

ジョルジュの身体が吹っ飛び、
壁に叩きつけられて床に膝をつく。

ディランの顔が歪むのを見るたび、胸が少し痛む。
けれど――2人は迷わない。

セナが冷たく言い放つ。

「動きが鈍ったな」

テオが笑う。

「そりゃそうだよ。俺たち、容赦しないからね」

2人は再び構えた。
氷と紅――相反する魔力が、
今はひとつの目的のために重なり合う。

「行くよ、セナ」

「呼び捨てするな」

「今ぐらいいいでしょ?」

「……仕方ないな。合わせろよ、テオ」

「はいはい」

迷いなく、前へ踏み込んだ。