第5部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

――まずい。

迷いがまだ消えない。
その一瞬の揺らぎが、また傷を生む。

シュッ!

「っ……!」

銀の刃が腕をかすめ、血が滲む。
わずかに震える指先。

「ほら、また迷った」

――負けない。
――負けるわけにはいかない。
――ディランを取り戻すまでは、絶対に倒れない。

そう思うのに、身体が追いつかない。
剣が重く感じる。
胸が苦しくて、息が浅い。

ジョルジュの剣が振り下ろされる。

「終わりだよ、ティアナ」



その瞬間――

氷の冷気と、紅い閃光が私の前に飛び込んだ。


「「お嬢様!!」」


セナとテオだ。

2人は迷いなく私の間合いに滑り込み、
同時にジョルジュへ蹴りを叩き込んだ。

ドッ!

「ぐっ……!」

ディランの身体が吹っ飛び、床を転がる。
よろめきながら立ち上がる姿を見て、胸がざわつく。

――見た目がディランだから……複雑。

血をぺっと吐き捨てながら、ジョルジュが笑う。

「おいおい……
王子に容赦なく蹴りを入れる騎士がどこにいる」

セナが冷たく言い放つ。

「ここにいる」

テオも肩をすくめる。

「うん、いるね」

2人の声は揺るがない。
その姿に、胸が熱くなる。

「セナ、テオ……!」

セナが振り返り、優しく微笑む。

「お待たせしました、お嬢様。大丈夫ですか?」

テオは剣を構えながら言う。

「あとは任せて……お嬢様」

2人が前に立つ。
その背中は頼もしく、強く、揺るぎない。