第5部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

「ディランは……貴方の器のために生きてきたんじゃない!」

声は震えているのに、芯だけは折れなかった。
怒りで胸が熱くなり、涙がにじむほど震えているのに、足は一歩も引かない。
むしろ、地面を踏みしめる力が強くなる。

「誰よりも努力して、傷ついて……
それでも前を向いて、生きてきたの!」

言葉は止まらない。
心の奥に積もっていた想いが、あふれ出す。
それは怒りでも悲しみでもない――ディランを守りたいという、揺るぎない願い。

拳を握りしめる。
爪が掌に食い込んでも、痛みは感じない。

「ディランは……貴方なんかに渡さない!」

叫びは震えながらも鋭く、
闇を切り裂く光のように響いた。

ディランの身体を使う“怪物”が、わずかに目を細める。
その反応が、逆に決意を固める。

私は一歩、前へ踏み出した。


ディランの顔で、そんな冷たい表情を向けられている。
その瞳に宿る悪意は、彼のものじゃない。
それが何より許せなかった。

胸の奥が熱く燃え上がり、腰の剣を抜く。

「おいおい……愛する男に剣を向けられるのか」

ディランの姿をした“怪物”が、喉の奥でくつくつと笑う。
だがもう、その声に怯える心はなかった。

剣先をまっすぐ向ける。
胸の奥で燃えているのは、恐怖ではない。
ディランを奪われたくないという、強くて真っ直ぐな想い。
その想いが、身体の隅々まで熱を灯す。